全国自治体病院協議会雑誌の「緑陰随想」に投稿した内容です。ご笑覧あれ!

そもそも「滝」の定義は、国土地理院によると「流水が急激に落下する場所で落差が 5 メートル以上で、常時水が流れているもの」とされています。しかしながら、歴史的に有名な滝や地理上の目標になりやすい滝については、多くの例外もあるようです。滝は大小様々ですが、自然の中での存在感・音・動きの永続性があり、悠久を感じさせてくれます。万葉集にも「たき」という言の葉があるようですが、川の流れの速い早瀬を指しているようで、滝のことは「垂水(たるみ)」と表現していたようです。

これは無理やりですが、当院のシンボルである佐藤忠良氏作の「さわらび」の像とも言の葉で繋がっており、「いわばしる 垂水のうえの さわらびの 萌えいづる春に なりにけるかも」という万葉集の歌に集約されます。滝のほとりに新芽の蕨が萌え出す早春の情景が、滝と早蕨が醸し出す佇まいとして鮮やかに浮かんできます。

私の趣味はランニングですが、場所を問いません。もちろん市民マラソン大会には、距離を問わず月 1 回程度参加していますが、山を走るトレイルランも好きです。今回は滝を見るためにもランニングをしているので、その楽しみを紹介いたします。

地元の奥入瀬渓流の中流域は滝が豊富ですが、遊歩道のほぼ中間点に「雲井の滝」があります。この滝もいいのですが、その滝つぼの左側から、細い山道がつづら折りになって上へ続いています。その道を雲井の滝を右下手に見ながら、1 キロほどブナの倒木などを越えながら進むと、見えてくる滝が「双竜の滝」(写真 1)です。その滝口は二つに分かれており、確かに荒ぶる双頭竜を想像させます。下から見上げると、水しぶきが光り輝き、荘厳な雰囲気を感じさせてくれます。そしてもう一滝、私の一番のおすすめが「松見の滝」(写真2)です。日本の滝百選に数えられる名瀑で、二段の階層からなる段瀑であり、落差が 90 メートルほどで、青森県内では最大級のようです。蔦川と奥入瀬渓流の合流地点から、渓流沿いを 3 キロほど進むと、右から支流の黄瀬川が合流しますが、その先右側が入山口になります。車も通ることのできる林道を 4 キロほど進むと右折する道があるので、迷わず右へ。ここからはやや傾斜のある林道が続き、さらに 5 キロほど進むと、左側に降りるように「松見の滝」の小さな看板があります。ここからは、完全な山道ですので、トレランシューズがおすすめです。

ひたすら降りていくと、ようやく瀑布の音が聞こえてきますが、なかなかその姿を見せてくれません。これも、この滝の魅力のひとつです。そして、やっと写真2 のようなお姿に、相見えることができます。これまで、10 回ほど通っていますが、滝つぼでヒトと会ったことはありません。ありがたいことにクマとも。

壮大な滝を仰ぎ見ながら、持参のバナナを食べ、自然と一体化し、日常を忘れます。往復約 24 キロ、累積標高約 600 メートル、私の走りで約 3 時間 45 分の滝見ランです。一見の価値はありますよ。

さて、とあるエッセイ集を読んでいたら、松尾芭蕉について書かれた文章に出くわしました。芭蕉の哲学は、「造化に帰れ」と言われていて、造化とは自然のことであり、大自然と一体となる心境で生きることだそうです。旅に終始した芭蕉ですが、なぜそんな純粋な旅の人生がまっとうできたのか? それは「旅に病(やん)で 夢は枯野を かけ廻(めぐ)る」の一句に表現されているとのことです。枯れ野には、句の題材になるような花は咲いていませんが、夢さえあれば枯れ野を自由に駆け巡ることができると芭蕉は言います。その夢の景色を、命ある限り追い求めるという大変クールな人生であったようです。

大自然と一体になるには、滝見ランはうってつけです。とてもとても芭蕉の心境にはなれませんが、浅く単純な私にとってはストレス解消に最適であると実感しています。

写真 1 双竜の滝

写真2 松見の滝